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アートの楽しみ方 | アートのある暮らしへの提案 Vol. 5 |黒田 耕治(しぶや黒田陶苑)

しぶや黒田陶苑取締役 黒田 耕治



 その作家の逸品を買うんだという気持ちを
           強くもつと、よい作品が集まります






 黒田 耕治  Kuroda Koji

しぶや黒田陶苑取締役。1969年生まれ。成城大学卒業。91年、古美術商、丸ヱ大野商店に入社。東洋古陶磁を中心に5年間学んだ後にしぶや黒田陶苑に入社、現在に至る。近代巨匠の逸品から現代の陶芸家の作品までを企画展や個展にて精力的に紹介。









北大路魯山人《椿文大鉢》
写真提供=しぶや黒田陶苑
現代に生きる作家とともに歩み、次世代に残るものを。日本と韓国にふたつの窯をもつ田中佐次郎の作品展
さまざまな作家が手がけた湯呑が並ぶ
「喫茶去」。おいしいお茶とお菓子をよい器で提案している
美しい花入に一輪の花を挿すだけで室内の趣きも変わる

- ふだん使いの作品から巨匠の逸品まで、広く陶芸作品を扱っておられますが、購入の際のアドバイスをお願いします。
 私がおすすめしているのは、作品を買う前にその作家の作品集や図録を集めること。というのも、それがその作家のどのレベルにあるかがわからずに実物を集めていくと、コレクションの質が弱くなってしまうからです。まずは、作家の全体像を把握したほうがいいと思いますね。図録には、全作品は載っていないにしても、似た作品があったりする。それらと照らし合わせ、買おうとしている作品のレベルを把握しつつ妥協をしない。その作家の逸品を買うんだという気持ちを強くもつと、よい作品が集まりますよ。
 それと、気に入った作家自身を俯瞰で見てみてください。つまり、その作家が美術の世界のどのあたりにいるのかを知ることです。そこまでできたらおもしろいし、逃してはならない作品もはっきり見えてきます。

- ときには、気になる作品に店先でふと出会う、ということもあります。そうしたときに、気をつけるべきことはなんでしょう。
 美術商には、いろいろな人がいます。信念をもってよいものを扱う人もいれば、儲かればいいという人もいる。だから、その美術商がどんな人間で、どんな仕事をしているかをよく見てください。それは、店の雰囲気や扱うものから見えてきますよ。よい美術商との出会いが質のよいコレクションを築きます。それから、同じお金を出すなら普通のものを10点買うよりも、いいものを1点求めたほうがいい。自分の思うレベルよりずっと上の作品を買うと、自分がその境地まで到達したいとがんばるようになります。「こんなの買っちゃっていいのだろうか」と感じても、思い切って買ってみると、それが自分の美意識を引き上げてくれますよ。

- 工芸品の場合、ほかの美術品と違って実際に使用できます。でも、壊してしまったら、と考えると......。
 作家はみんな、使ってもらうために制作しています。花入なら花を生けてみてください。湯呑やぐい呑も大事に使えば割れません。どんどん使ってほしいですね。同じお茶やお酒でも味がぜんぜん違いますよ。一生懸命つくった作家の魂が入っていますから。
 割れるものだからといって、箱に入れて押入れにしまいこむ人が多いのですが、ぜひ使うべきです。花入を買って花のある生活を始めると、花がないとなんだか居心地が悪くなる。お酒を飲むにも、気に入ったぐい呑でないとどうも飲む気にならない。いちどほんとうのよさを知ると、もう戻れません(笑)。

- 黒田さんは毎月、お茶とお菓子と器の具体的な組み合わせを提案していますね。
 そうなんです。「喫茶去」という禅語を使わせていただいております。季節をテーマにひと月ごとにおいしいお茶とお菓子の取り合わせを考え、それが引き立つような器で、お店に来ていただけるお客様にお出ししています。こういう試みによって、お茶と器の関係を見直してくれる人が確実に増えました。お茶はもてなしの気持ちを表す行為です。便利だからといって、お客様にペットボトルのお茶を出すのは、私たちから見ると悲しいばかりです。時間はかかりますが、ていねいに淹れて差し上げたい。だからといって身構えず、さらっと楽しめるといいですね。茶の湯の世界とはまた違う、日常がより楽しくなるような提案を、これからもしていきたいと思います。
 お花も、華道だなんだとかしこまらずに、一輪の花を挿してみるだけで、部屋の雰囲気ががらりと変わります。道で見かけた野の花でもいいんですが、いい器があることが大事です。人のためにおいしいお茶を淹れることで人と人の対話が生まれ、家に花があることで気持ちもほぐれる。そうしたことに気づいた若い人たちが、最近はお店に増えていますね。20代の人も来られますよ。若い人でも、そうした境地にたどり着く人がいるんです。
 いまの世の中、こんなふうにちょっと一息つける時間が必要ではないかと思いますね。忙しくても心をなくしてはいけない。いい美術品を暮らしに取り入れることで、心が豊かになるきっかけが生まれるんじゃないでしょうか。




出典: ART BOOK vol.1 (※画像、内容一部改変)
Photo by SCENE inc.
(c) MORIMOTO Co.,Ltd.

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