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アートの楽しみ方 | アートのある暮らしへの提案 Vol. 2 |田中 大(思文閣)

思文閣社長 田中 大


 非日常の空間を愛でて楽しむ
   それは古くから日本人が好んできたことなんです




 田中 大  Tanaka Dai

思文閣社長。1964年生まれ。追手門学院大学中退後、89年に思文閣入社。2000年社長に就任。京の老舗「思文閣」の三代目。古書画、古典籍、近代絵画を中心に近代工芸まで幅広く取り扱う。また、美術館・画廊運営、出版事業なども手がけ、つねに新しい感性で、日本文化の創造・伝承・普及の経営理念を実施する。7月に「先賢諸聖のことば(PHP出版)」を出版。徳川慶喜、勝海舟、福沢諭吉、渋沢栄一、吉田茂などの直筆の格言・名言から現代人へのメッセージを読み解いている。











思文閣銀座店の様子
オフィス空間で作品を楽しむための提案例
写真提供=思文閣
冷泉為恭《吉野の雪》
写真提供=思文閣

- 書画や掛軸、日本画などの購入を検討している方が増えている一方で、美術店には入りにくいという声もあるようです。
 僕は、真っ白な状態で見にいかれたらいいと思うんです。まずは本物にふれて、そこになにを感じるかが大事。最近は美術館の解説もていねいになってきて、「どうぞ見てください」という感じに変わってきています。その意味でも、いまは初心者の方でも美術品を楽しむチャンスなんですよ。
 アートフェアや画廊では、ガラスケースに入っていないので、作品の空気感や当時の作家の思いに直接ふれられるのも貴重です。いちど、足を運んでみてください。

- 昨年(2007年)の秋、『先賢コレクション』(非売品)という本を自社で出されましたね。(※現在は「先賢諸聖のことば 直筆の格言・名言コレクション75(PHP出版 \¥1,890)」として全国書店にて販売中)
 歴史的に有名な政治家や宗教家の書いた書は、いまでもけっこう残っているんです。そこで、作品を紹介しながら現代の言葉で書き下し、解説しました。書をかたちとして見るという鑑賞法もありますが、内容が理解できれば、感じることも変わりますよね。先人の残したメッセージを聞くことは、経営哲学を考えるうえでも勉強になりますから、オフィスに作品を置く提案もしています。
 また、家庭でも、服の裏地でもなんでも、ちょっと裂を垂らして、その上に掛軸をつったりすると、簡単に床の間のような空間ができます。非日常の空間を生活のなかにつくりだし、愛でて楽しむ、楽しませるということは、古くから日本人が好んできたことなんです。

- 掛軸を楽しむには、どんなところを見ればよいでしょうか。
 掛軸というのは、画と表具と箱の3つでできた一種の総合美術なんです。冷泉為恭という幕末期の画家の作品には、吉野の雪景色が描かれています。そこで表具をよく見ると、桜がちりばめられている。吉野の桜を連想させますね。まもなく春だと季節感を感じさせる、表具でそんな気遣いをしています。それから、見ていて違和感もなく疲れないのは、たとえば上の一文字(書画の上下につける裂地)の幅は、下の一文字の2倍、下の中まわし(一文字の天地の裂地)は上の一文字の2倍、上の中まわしは下の2倍......というふうになっていて、一種の約束事がバランスのよさを生んでいるから。理にかなったものなんです。

- 作品を見て、愛でて楽しむことで心の変化も生まれそうです。
 《不如帰》という題名の作品があるんですが、画面の中にほととぎすはいません。でも、それを見ている目線がある、という感じがしてきます。そうすると、「画面の外には、ほととぎすが飛んでいるんだろうな」と見る人は想像しますね。そんな遊び心が生まれることで、生活のなかの美にも気づくようになる。絵ひとつで心持ちが変わるんです。そういうスイッチを入れるには、日本画はわかりやすいのではないかと思いますね。

- 日本画の展覧会は動員も多く、会場ではレプリカもよく売れるそうです。

 なにかを自分のものにしてみるというのは、いいことだと思います。たとえば、1000万円の本画は無理でも、100万円の版画なら手が届くという人にとっては、版画を楽しむということも「アリ」ですよね。むしろ手に入れるということがポイント。心にゆとりがないとできないことですし、見ると買うとでは大違いですから。

- 田中さんご自身の経験で、なにかエピソードはありますか。
 小学3年生のとき、親が数枚の絵を並べて、「兄弟でそれぞれ部屋にかける絵を選んでいいよ」といったんです。それが絵との初めての出会い。子どもなりに、こっちのほうがすてきやけど、こっちのほうが高いんちゃうかとか(笑)、かなり真剣に選びましたね。結果的に高いものじゃなかったんですけれど(笑)、いまでもその絵は大事にしています。自分のものになるといわれたら、わくわくしますよね。みなさんも、作品を楽しむ入り口はなんでもいいと思うんですよ。


出典: ART BOOK vol.1 (※画像、内容一部改変)
Photo by SCENE inc.
(c) MORIMOTO Co.,Ltd.

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