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| 画廊内に展示されていた作品 左: 雪麿「見立恵比寿大黒」 右: 広重「洲崎の初日の出」 |
今年のアートフェア東京2008に初出展となる角匠(すみしょう)は、数多くの貴重な浮世絵を所有しており、特に春画においては、江戸時代の風俗文化研究に大きく貢献している画廊といってもいい。今回は、角匠のオーナーである角田日出男氏に、画廊の活動と今回出品予定の春画についてお聞きした。日比谷の帝国ホテル前のビル3階にある画廊に着くと、角田氏自らが笑みを湛えながら出迎えてくださった。伝統と格式を重んじる古美術の世界に不慣れな私たちは、角田氏の笑顔に緊張が解けてゆくのを感じつつ、和やかな雰囲気のなか、今回のアートフェア東京に臨む思いについてインタビューを行った。
- まず、画廊のなかでも浮世絵を専門的に扱う仕事について多くを知らない私たちは、角田氏がどのようにこの仕事を始めたのか、その契機と動機について伺った。
大学を卒業してすぐ浮世絵では有名な羽黒洞に入社致しました。7年の修行期間を経て独立、青山(神宮前)に小さな画廊を持ちました。後に現在の地に至っています。羽黒洞では、浮世絵の他伊万里や近代絵画にも接することができ、より古美術に対しての情熱が高まったような気がします。特に、浮世絵の中でも肉筆画(作家の直筆)には強く惹かれていきました。
-角田氏は浮世絵の中でも肉筆画にこだわりをもっているようだ。浮世絵のことをあまり知らない人でも、浮世絵といえば「版画」という意識はなんとなくあったりするものである。角田氏は、こうした意識が、実は昭和初期に起きたある贋作事件により形成されたもので、本来ならば肉筆画と版画の位置関係は逆転していたと主張する。
肉筆画は、版画に対する本画という認識です。洋画でいえば、タブローとエッチングの関係であって、国際評価の中でもその価値の違いは歴然としています。幕末から明治にかけて、多くの浮世絵が海を渡り海外で高い評価を得ました。しかし、それは単に浮世絵版画に対する評価ではなく肉筆画を含めた全体に対するものだったのです。その証拠に、大英博物館やボストン美術館、フリア美術館そしてギメ美術館に日本に遺存する数をはるかにしのぐ大量の肉筆画のコレクションがあることで解ります。しかし、ここで浮世絵版画の素晴らしさをあえて否定するものではありません。
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| 角匠 オーナー角田日出男氏 |
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| 幕末の錦絵 |
- ここで、角田氏の心をとらえて放さない浮世絵の魅力について聞いてみよう。浮世絵はどのような文化的背景に成立した芸術表現なのだろうか?
浮世絵が生まれた江戸の文化は、キリスト教と深く結びつき貴族に支配された欧米文化と比較して、圧倒的に民衆の中から沸きあがった文化なのです。当初は、庶民風俗を描いた肉筆画がもてはやされたのち、江戸中期に木版技術の向上(錦絵の誕生)によってそれは爆発的に発展しました。その背景には、武家社会を凌駕する旺盛な庶民のエネルギーがあったわけです。この違いを欧米の研究者は、解っていても決して認めたがらない。江戸文化は、日本人にとって極めて重要であり世界に誇れるものなのです。
- 浮世絵に熱意を注ぎ込む角田氏だが、国際的なアートフェアには初めて出展するという。アートフェア東京という舞台に浮世絵を送りこむことには一体どのような意図があるのだろうか。
アートフェア東京には、古美術に興味をお持ちでない若い層の人たちもいらっしゃいます。今は古美術のファンではないけれども、現代美術に興味を持っている方たちが、古美術の面白さや表現の豊かさに気づき評価するきっかけにしたいのです。そのために、今回参加することにしました。
- それでは、どのように未来の古美術ファンにアプローチするのだろうか。文科省の国際日本文化研究センタープロジェクトに参画していたり、大英博物館などに資料を提供している角匠なので、何か秘策を考えているに違いない。
今回私共は、浮世絵の入門編でなく一種到達点とも言える浮世絵春画を展示致します。浮世絵春画は、単に興味本位にとられる向きもありますが、実に奥の深い江戸文化の結晶で、その図中には、数え切れない程の貴重な文化情報が入っています。私は、皆さんに春画の芸術性を正しく理解して頂きたく、そのよい機会と捉えています。芸術に値するものか、否かの鑑識眼は良いお手本をご覧頂ければ自と備わっていくものと確信しています。
- さてここで、出品する作品について具体的に聞いてみよう。最高峰のものと聞いて、ますます期待は膨らむ一方だ。
今回は、歌麿と北斎2大作家の版画の大名品を展示致します。いずれも、12枚揃いの完全セットで、本来ならば普通の照明ではなく江戸時代の人達が浮世絵を見ていた灯りと環境を再現したかったのですが、それはさすがに無理でした。しかし、できる限りの努力はしたつもりです。以前アメリカ人の大コレクタープライス氏が来店され床の間に掛けられた作品をご覧になられるのに、「室内の照明を全部消して下さい。自然光で見てみたいのです。」とおっしゃられたことが良き教訓となりました。今回出品する歌麿の「小町引」はフランスの文豪エドモンド・ゴンクールの旧蔵品です。世界一美しいものと自負致しております。
浮世絵と言えば、美術館や博物館にあるものと思いがちだが、アートフェア東京ではいつもより近い距離感で浮世絵を見ることができそうだ。少し暗いところに浮き上がる色彩の妙を愛で、最高峰の表現と技を堪能するのも一興だ。買うばかりでなく、「良いものに出会える」のもアートフェアの楽しみの一つ。アートフェア東京に来たら、必ず角匠にも立ち寄ってみよう。きっと眼福にあずかるはずだ。
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角匠
江戸時代に活躍した諸派の絵画、浮世絵肉筆画を中心として、近世絵画全般を扱っている。特に春画においては、江戸時代の風俗文化研究に大きく貢献している。




