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アートの楽しみ方 | New York Reflections vol.10

New Museum (NY)
Photo by Dean Kaufman

「建築・アート・不動産
2008年、ニューヨークのアートシーンはバワリーから!」

住宅ローンの破綻、金融会社の赤字決算など、米国はいよいよ不況に向かっている。が、ことニューヨークにみる限り、アートも不動産も高いほど売れ行きがいいようだ。オークションでは、スター作家の現代アートが最高値を更新し、有名建築家によるマンションは、完成前から売り切れる。そんな勢いの中、バワリー通りにオープンしたニューミュジアムを中心にホットなアートシーンが生まれている。


建築とアート

New Museum 1階ロビーのブックストア(右)とカフェ
Photo by Dean Kaufman
Exterior detail of the New Museum
Photo by Manami Fujimori
New Museum 地下のミニ・シアター
Photo by Dean Kaufman
開館記念展「アンモニュメンタル」
Rachel Harrison
Huffy Howler, 2004, Mixed media
Courtesy Greene Naftali, New York

さる12月初旬、ローワーイーストサイドのバワリー通りにニューミュージアム(New Museum)がオープンした。もともとソーホーにあった現代アートの美術館だが、構想から5年、約50億円の総工費をかけてついに完成。ニューヨークでは、美術館の増改築は多いけれど、新建築のお披露目は、かのグッゲンハイム美術館(1959年)とホイットニー美術館(1966年)以来、絶えて久しい。また、マンハッタンはここ数年、フランク・ゲーリーだ、ジャン・ヌーヴェルだと、著名建築家によるブランドビルが話題を集めている。この点でも、国際的に活躍する日本の建築家 SANAA(代表:妹島和代と西沢立衛)を起用したニューミュージアムの建物には、早くから注目が集まった。

ここ半年ばかり、私も何度、ニューミュージアムの建設の行方を見守ったことだろう。設計案どおり、7つのボックスを積み重ねた、しかもそれぞれが出っ張ったり引っ込んだりしたいびつな建物が、文字どおり段々に形を成していく。半透明の表面は、遠くから見ると薄い紗幕を張り巡らしたよう。でも、中はいったいどうなっているの? 肝心の展示作品の内容は? 

お披露目の12月1日(土)、この日は、美術館の創立30周年を記念して正午から翌2日(日)の午後6時まで、30時間ぶっ通しのオープニング(無料)となった。雪混じりのあいにくの天候にも関わらず、バワリーからスタントン通りにかけて観客の長蛇の列。が、ガラス張りの明るいロビー、地下のミニ・シアター(182席)、2、3、4階へと続く真っ白なギャラリーの美しさに、寒さで硬直した心がほんわか溶けていく。5階の教育センターには主要アート雑誌が並んでいて、これはちょっとした情報収集に便利。最上階の多目的イベント空間「スカイルーム」は、東と南にはり出したテラスが洒落ている。外に出れば、アルミメッシュの外観が手に触れるほどに近い。

内装は一見シンプルだが、ずれたボックスの天井が天窓の役割を果たすなど採光には格別の配慮がなされている。最上階と思った7階のスカイルームの上に、実は電気配線その他の機械室(8階)がある。が、外からはどう見ても7層の建物にしか見えない。マジカルなこの建物は、昼間はぼーっとして目立たず、周囲の殺伐とした街路風景にも無理なく溶け込んでいるようだ。夜の帳が降り、ちょうどローワーイーストサイドのカフェやクラブが若者たちで賑わいを見せる頃、ニューミュージアムは、薄物をまとった優雅な貴婦人のごとき姿をくっきり現す。

ちなみに、木曜と金曜の開館は夜10時まで。とくに木曜の7時以降は入場無料なので、早めの夕食の後、ゆっくりアート鑑賞ができる。開館記念の展覧会「アンモニュメンタル」は、タイトルどおりジャンクアート風な彫刻作品を集めたもの。彫刻のみで壁には何もかかっていないけれど、1月から徐々に絵画展示が始まるとのこと。いまはまず、SANAA の展示スペースを生のままで存分に見てほしいという仕掛けのようだ。

5年前、SANAA の二人がニューミュージアムの新館設計を依頼された頃、彼らはまだ金沢21世紀現代美術館を建てていなかった。この大成功の後、オハイオ州のトレド美術館の瀟酒なガラス建築で米国でも知られるようになり、いま現在、スペインのバレンシア現代美術研究所を手掛け、特筆すべきは、ルーブルの別館建設の建築家に指名されてもいる。まさに注目の二人だが、バワリーもまた、この5年間で大変貌を遂げた。いや、遂げつつある。


アートと不動産

Photo by Manami Fujimori
Restaurant "Freemans"
Photo by Manami Fujimori

バワリーは、イーストビレッジからチャイナタウンまで、マンハッタンの南部を南から北へ斜めに走る大通り。かつて全米一のドヤ街と称され、失業者やアル中がたむろするエリアだった。ニューミュージアムの周囲は、レストラン用厨房器具の店や中古の家具店が軒を並べ、ホームレスのシェルターも多い。が、そんな界隈にいまや高級オーガニックの店「ホールフーズ」の巨大店舗が進出している。ガラス張りの高級コンドミニアムや高層のホテルも目立ち始め、マドンナがデヴューしたクラブ「CBGB」はとっくの昔にクローズして、瀟酒なロフト風アパートに改装中。バワリーは、あっという間の不動産開発ですっかり注目の場所となってしまった。ニューミュージアムのオープンと前後して、新聞の経済面であれ、建築やアートの欄であれ、話題にのぼらない日はないほどだ。

アートの行くところ、街の商業開発は進む。これはソーホーがいい例で(ダンボもウィリアムズバーグもしかり!)、アーティストや画廊主たちは、暖房もない古いロフトを手間ひまかけて改装し、やがて人の往来が生まれ、カフェやバーが出来、お洒落で便利になった頃には、儲け主義の家主に追い出されてしまう。ソーホーの画廊スペースは、路面の一等地の場合、ほぼ100%、ブティックやデザインストアに取って代わった。

ニューミュージアムがもとあったソーホーのブロードウェイは、一時はグッゲンハイム分館やアフリカ美術館が軒を並べる一画だったが、前者は閉じ、後者はクイーンズに移転し、ニューミュージアムは、当時、だれの頭にもなかったバワリーに土地を求めた。
「マンハッタンで唯一手に入る土地が、バワリーの空き地(駐車場)だったの。ローワーイーストサイドはビレッジにも近く、昔からボヘミアンでアーティストの街。クラブや小劇場がたくさんあって、若者文化が根づいている。実験的で新しいアートのスペースとしてのニューミュジアムにはぴったりだと思ったわ」とは、館長のリサ・フィリップスの弁。そのバワリーが5年後にこれほど開発が進むとは、フィリップスも想像していなかったに違いない。

皮肉なことにチェルシーの画廊街もまた、ソーホーを上回る速度で商業化が進んでいる。ここ数カ月、画廊よりレストランのオープンが目立ち、ハドソン川沿いはまさにウォーターフロント再開発。夜景が売り物の高層アパートの建設が進み、ハイライン(もとの産業用鉄道路)跡地に公園が実現すれば、住宅建設はもっと増えるはず。結果として、ビルの家賃は2倍、3倍に。90年代後半にソーホーからチェルシーに移転した画廊の多くは、10年のリース契約の更新が迫っている。いったいどれだけの画廊がチェルシーに残れるか、その存続を危ぶむ声すらある。


ホットなアートシーン

画廊ディレクターのエイミー・スミス=スチュワート
Amy Smith-Stewart, Director
Photo by Manami Fujimori
フルーツ・アンド・フラワー・デリ
Fruit and Flower Deli on Stanton St.
Photo by Manami Fujimori
「レンタル」での展示風景
Installation view at Rental
Photo courtesy Rental

ニューミュージアムが呼び水となってか、バワリーを基点としたローワーイーストサイドには、すでに30軒以上もの画廊が集まっている。「フィーチャー」や「エンヴォイ」のように早々とチェルシーを離れた画廊もあれば、「スミス=スチュアート」や「フルーツ・アンド・フラワー・デリ」のようにアパートの一階に隣り合って店を広げる若手のミニ画廊、また、「リーマン・モーピン」や「イレブン・リビングトン」など大手画廊の2号店としてのスペースもある。バワリー進出の思惑はそれぞれだが、ローワーイーストサイドには古くから「ギャラリー128」や「ABC No Rio」といったアーティスト主導のスペースがあり、近辺の古いビルやアパートにスタジオを構えるアーティストも多い。

「同じ世代の作家たちと同じ近さで仕事ができるのがいい。トレンディだからというのではなく、ローワーイーストサイドが自分には一番合っている。」(「スミス=スチュワート」のディレクター)
「上の階に住む人たちは、現代アートなんて見るのも聞くのも初めてって感じだね。でも、アル中やドラッグ中毒者が寄りつかないよう僕たちを守ってくれる。僕らもローワーイーストサイド のコミュニティの一部なのさ。」(「ラックス」のディレクター)

こんな親近感を、実は、私もすぐに感じてしまった。もしかしたら、60年代ソーホーの起こりはこんな風だったのでは、という思い。まだ生々しいのだ。チェルシーのようにきれいで広くはないのだ。すべてが手作りという感じ。あるものを利用してのスペース。「リーマン・モーピン」のようにお金持ちの画廊でさえ、クリスティ通りに開いた2号店は、床のタイルは欠けたまま、木のドアはガタピシのまま。チープシックを保っている。また、チャイナタウンのビルの中の「レンタル」は、西海岸やヨーロッパなどニューヨーク以外のギャラリーにマンハッタンでの展覧会を実現させてあげるのがミソ。アーティストにではなく、画廊に貸すスペースという発想が面白い。

実際、チェルシーの画廊街は画一的になりすぎた。ここ1、2年、どの画廊も大拡張を繰り返し、美術館のように広くなってしまった。似たようなスペースの中、大きいだけのアートが並ぶ。その点、ローワーイーストサイドのギャラリーは、人間的なスケールだ。企画がもっと自由なのだ。だからアートがよく目に入る。スタッフとの会話が自然に始まる。バワリーと交差するスタントンやリビングトン、平行に走るクリスティやオーチャードの通りには、ヒスパニックやチャイニーズやジューイッシュのいろんな文化の匂いがある。ぶらぶら歩けば、イースト・ブロードウェイの大通りもすぐ。ギャラリー巡りの最後は、私の場合、いつもこの新興のチャイナタウンだ。大根や白菜やエビを買って、夕飯の支度もこれで安心。

ソーホーともチェルシーとも違う、ローワーイーストサイドのホットなアートシーンはいま始まったばかり。ニューミュージアムの SANAA の新建築を手始めに、ストリート沿いのギャラリー、路地に隠れたギャラリー、中華街のビルの中のギャラリーなど、新傾向のスペースを訪れてみよう。新しい作家の新しい作品に出会う、先物買いのチャンスでもある。


*よみタイムVol.79 2007年12月21日発行号 「バワリー街、異変!」より転用。
artcafe掲載用に一部修正しております。

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