![]() |
| 丸亀市猪熊弦一郎現代美術館 外観 JR丸亀駅前に位置する |
今、瀬戸内地域のアートが面白くなりつつある。というのも、2010年に瀬戸内国際芸術祭が開催されるということが、今年の春に発表されたからだ。このアートのイベントは、地中美術館やベネッセ直島コンテンポラリーなどがある直島や大島(香川県)、犬島(岡山県)などを含む瀬戸内海の8つの島を繋いで行われるものらしい。アートカフェ編集部は、いち早くその情報をキャッチし、今の瀬戸内地域のアート事情を知るために、残暑厳しい岡山市と、讃岐うどんで知られる香川県の丸亀市を結ぶ地域を訪れた。
![]() |
| 丸亀市猪熊弦一郎現代美術館 内観 設計は谷口吉生氏 |
![]() |
| 猪熊弦一郎の常設展 "妻を描く" |
今回は、丸亀市にある市立の現代美術館、丸亀市猪熊弦一郎現代美術館(通称: MIMOCA)の活動をお伝えする。名前のとおり、丸亀市にゆかりのある美術家の猪熊弦一郎の作品コレクションが核をなす美術館だが、そのほかにも魅力がたくさんある。
1991 年に市の要請で設立されたMIMOCAは、駅前という立地条件の良さと、2004年に新しく開館したニューヨーク近代美術館の設計などで知られる谷口吉生氏設計の開放的な空間、独自の路線で企画を行う展覧会や地域の食材を生かしたレストランなどで、設立当初から人気を集めている。現在、全国の公立の美術館は、指定管理者制度導入の流れのなか、運営の見直しを迫られているところだが、丸亀市猪熊弦一郎現代美術館の活動は、他の地方公立美術館と比較してもより注目されているものとなってきているようだ。設立から10年余り、今もなお色あせず、美術ファンの心を捉えているものとは?学芸員の植松由佳さんに、美術館の特長とプログラム作り、そして瀬戸内地域の美術事情について聞いた。
- まず、MOMOCAの設立背景を教えて下さい。
瀬戸大橋ができたのが87年ということもあって丸亀の駅前の再開発計画が高まり、また、丸亀市の90周年の記念事業ということもあって、美術館の建設が市から持ち上がりました。
- 現代美術館で人名が入っているのは珍しいですね。猪熊弦一郎とこの美術館とはどのような関係性を生み出していますか?
猪熊弦一郎は高松市出身ですが、旧制中学(現在の高校)は丸亀中学を卒業しており、東京美術学校(現・芸大)へ行くまではこの丸亀市中心のエリアで育っています。その当時、猪熊の教師だった人や猪熊の父が学校の先生だったという繋がりで協力を仰ぎたいと市から要請があったと聞いています。
ここの美術館の場合、今までの猪熊の仕事を検証することを柱の一つとしていたので、猪熊の名前を入れました。また、「現代」を入れるか入れないかで議論があったようです。「現代」というのは猪熊の希望で、彼が意図する現代というのはエッジなところの現代から「現代に繋がるようなもの」までと幅広く捉えています。だから展覧会でももちろん現役の作家の展示もやっていますが、精神性が現代に通ずるようなものであれば、うちの美術館らしいものとして取り上げています。それが猪熊の意図しているところでもありますね。
![]() |
| 企画展 "エルネスト・ネト展" |
![]() |
| 作品内でくつろぐ鑑賞者たち |
訪れたときには、ブラジルのアーティスト、エルネスト・ネトが、この美術館の空間のために制作したというソフト・スカルプチャーの展覧会が開催されていた。コットンやライクラ生地という伸縮性のある素材を使って制作されるインスタレーションは、来場者が触ったりその上で寝転んだりすることができるもので、子供から大人までが自由に変化する形や素材の肌触りを楽しんでいた。インターネットなどのテクノロジーが発達し、ますます相手の顔が見えないコミュニケーションが広がる中で、このような直接触れ合って隣の人たちと一緒に笑ったり考えたりすることは、現在において意味のあることかもしれない。この展覧会は、他の美術館には巡回せず、ここでしか見られないものとなっている。
- 今回のエルネスト・ネト展は、大きな展覧会にも関わらず巡回はしないそうですね。そうすることによって何か意図するところはありますか?
(丸亀市猪熊弦一郎現代美術館を経験することにおいて、)飛行機や電車でわざわざ来てもらうっていう過程ってすごく重要なんですよね。直島も船を乗り継いで、自分が作品にたどり着くまでの過程がまた思い出になって、その作品と触れてその思い出と共に帰っていく経験って非常に重要だと思います。
2001年にヤンファーブル展を開催しましたが、海外の作家にオファーすると大抵言われるのが「丸亀って一体どこ?東京にも巡回する?」って聞かれるんですよ。ファーブルも同じような反応でした。でも、実際当館に来てもらって展覧会をすると、ここでやってよかったって言ってもらえました。どうしてかっていうと、東京のような大都市圏だと日常生活の一部というかご飯食べてそのまま美術館行ってそれで終わってしまう。ここだと道程をちょっとした通過儀礼のように、そこへ達するまでの過程を体験してもらってその先に作品がある。地方から来るお客様も同じで過程が大事なんですね。わざわざ足を運ぶことの重要性と、そこにしかないものを観る。そういうことでいうと今年は夏、ヴェネチア、バーゼルなどなどたくさんやっていて日本の方もたくさんいきましたけど、ヨーロッパ行くなら日本にもまだまだ観るところがあります!
![]() |
| MIMOCA ミュージアムショップ 猪熊氏デザインのTシャツ等販売している |
![]() |
| MIMOCA学芸員の植松由佳氏 |
地方にありながら、一般的に難解と思われがちな現代アートを広く一般の人々に伝えてゆくことはそうたやすいことではない。実際、日本全国の公立美術館は、民営化の動きのなかで独自に採算をとってゆく方策をさぐり始めている。それは、展覧会などのプログラムと同時にサービスを充実させることで、さまざまな人々に開かれた魅力ある場を作るということである。そうした美術館の過渡期についてお話を聞いた。
- 今、公立美術館が民間の企業や財団により運営の方向性を探るための制度(指定管理者制度)が自治体によって導入されていますが、それによって今までの美術館運営と比較して変わってきていることはありますか?
(指定管理者制度の導入によって)現実問題として何が起こっているのかと言うと、お客様へのサービスは確かに向上させる動きがでてきているのですが、これはよいとしても一方で美術館の在り方そのものがないがしろにされている気がします。お客さんが入る展覧会作りも大切だと思いますが、内容よりもそうした動員重視で展覧会が開催されているのは否めないことですね。
また指定管理者制度はある一定の期間ごとに公募が繰り返されるので中長期間に渡っての美術館としてのミッションや目標というのも立てづらくなりました。それから美術館で勤務する職員も指定管理団体としての期間のみの契約職員として採用されることが多くなってきましたので、これも組織として考える際に非常に問題になっていると思います。学芸面でも例えば専門性を有する職員を継続して雇用できないとか。そもそもこの制度の導入は公園や駐車場といった公共施設の導入とともに一律の制度として美術館にも導入されてしまったものですが、もう一度立ち止まって、既に指定管理者制度が導入されている美術館で今現実問題として何が起きているかということが徹底的に検証されるべきだと思います。予算削減のためにこの制度を導入したはいいけれども、結果的に納税者の不利益につながるのなら意味がないですしね。
指定管理者制度とは、サービスの向上と管理運営経費の削減が第一の目的である。一見何の問題のない制度だと思っていたが、実際現場の話しを聞くと、指定管理者制度に疑問を感じざるを得ない。この問題は美術館だけに限らない。現実に指定管理者が管理する施設で起きた事故は、専門知識の要する適正の管理が行われなかったためという指摘がある。植松さんの言うとおり、もう一度この制度の見直しが必要な時期にきているのは確かだ。
また、美術館運営だけでなく、現代アートを扱う施設ならではの問題もでているようだ。
今までの美術館、いわゆるホワイトキューブとしての美術館だけの活動ではもう限界が見えてきているのは確か。限界というか、活動方法が自ずと違ってきているのかもしれません。現代を扱っていると、収蔵している作品のことや、アーティストのあり方もどんどん変わってきているので、美術館という施設だけではフォローしきれなくなっているし、美術館のあり方もどんどん変わらざるをえないだろうと思います。また美術館のあり方が変わることによって、周囲との関係性も変化せざるを得なくなっていると思います。例えば以前に比べて地域との関係性がこれほどまでに重要視されることは以前にはなかったと思います。それにより美術館活動や美術そのものへの理解を促すために教育普及活動の重要性もより声高に言われるようになりましたよね。
今までの美術館は建物があって 作品を管理し、また展覧会をする、この形態が 変容しているようです。例えばですけど、それは美術館とアートの位置を考え直さなければいけないといことかもしれません。今後の問題点だと思うんですね。それで、それをクリアしていくのが現代美術だとも思いますし現代美術の力だとも思います 。
![]() |
| 9月に行われたワークショップの様子 "音がする焼き物" ©MIMOCA |
![]() |
| 応接室に飾られていた猪熊氏直筆の書 |
現代アートの多様な表現を柔軟にとらえて人々に伝えてゆく植松さんの姿勢は、これからの美術館にとってますます重要になるだろう。最後に、MIMOCAの活動のこれからについて伺った。
- MIMOCAのこれからですが、プログラムをどのような人たちに向けて発信してゆきたいと思いますか?
やっぱり子どもたちって大事だと思うんですよね。金沢の21 世紀美術館が活発に学校と連帯して活動しているように、授業として美術館を訪問するなどやっていますよね。当館でも高校生以下は無料なんですね。最近では、夏休み前にワークショップを行うチラシを作って学校に配布してもらいました。子ども同士での口コミや同行したお母さん達の口コミなど、色々飛び交って・・・家族連れが今回多いのは嬉しいです。どんなに難しい展覧会でも、まず美術館に一歩足を踏み込んでもらいたいですね。来ていただいてほったらかしにするのではなく、美術館の見方もありますから、なにがよくてなにがいけないのかってその導入ってすごく大事だと思うんですよね。なかなか観るのって難しい。子どもの時から美術館に行き慣れていると、大人になってからも「観る」術を知っているというか、反応や感受性が全然違うと思います。すぐに成果の上がるものでもないけれども、数十年後を見越して、そういうことをやっていかないといけないと思います。
これは、猪熊の直筆なのですが、「-美術館は心の病院-」とあるように、猪熊のイメージする美術館というのは、彼は1955年から1975年まで20年間、ニューヨークにいたので美術館というとMOMAなど、日本とは違う海外の美術館が頭にあって、いわゆる「かしこまったイメージ」がある日本の美術館ではなく、市民が気軽に行ける、美術館に行くと気持ちが豊かになれる場所というのがありました。あまり構えず日常生活の延長線上にあるような場所を今後も提供できたらと思います。
独自の企画運営とそれを人々に広く伝えてゆく方法を模索し、実現してゆく。MIMOCAを訪れて、そのような熱意が伝わってきた。エルネスト・ネト展が終わった今は、世界的な注目を集める南アフリカ共和国のペインター、マルレーネ・デュマスの展覧会が行われている。地方とはいえ、MIMOCAを訪れる人たちは、「今」の「世界」のアートに触れられる点で、幸せだと感じた。これからも「世界」と地域を結ぶ窓として、また心のオアシスとして、子供から大人まで多くの人々が気軽にアクセスできる場作りを目指してほしいと思う。2010年の瀬戸内国際芸術祭が開催される時期には、MIMOCAでも何か面白いことが起こっているはずだ。その時はまた、瀬戸内海のおだやかな風景のなかで、讃岐うどんと瀬戸内のアート・シーンを堪能しようと思う。
*********************************************************
現在開催中の企画展
「マルレーネ・デュマス ブロークン・ホワイト」
2008年1月20日(日)まで
※11月23日(祝)は開館記念日のため
観覧料は無料
HP: http://www.mimoca.org/
photo & text by 大隈理恵









