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ミュンスター彫刻プロジェクト2007 - アートで彩られた街へ -

ドイツ西部にあるミュンスター市は、大聖堂を中心に広がる大学都市。この街で、1977年から10年ごと(!) に野外彫刻展が開催されている。その名も「ミュンスター彫刻プロジェクト」(Sculpture Project Munster)。

(a)Swicth+
(b)ハンス=ペーター・フェルドマン(Hans-Peter Feldmann)〔独〕, ドームプラーツW C
(c)街道に埋まっている煉瓦がアーチを描いていた
(d)ダン・グレアム
(Dan Graham)〔米〕, ミュンスターのためのオクタゴン
(e)ジェニー・ホルツァー
(Jenny Holzer) 〔米〕, ベンチ
(f)ダニエル・ビュレン
(Daniel Buren) 〔仏〕, 4つの門
(g)スーザン・フィリップス
(Susan Philipsz)〔英〕, ロスト・リフレクション(失われた反射)
(h)ブルース・ナウマン
(Bruce Nauman) 〔米〕, 水平俯角の四角形
(i)パヴェウ・アルトハメル
(Pawel Althamer) 〔ポーランド〕, 小道
(j)ドミニク・ゴンザレス=フォレステル(Dominique Gonzalez-Foerster)〔仏〕, ミュンスターのロマン(物語)

この展覧会。立ちあげのきっかけが面白い。1970年代、現在では日本でもよく見かける彫刻家のヘンリー・ムーア(Henry Moore)や風によって動く彫刻を作るジョージ・リッキー(George Ricky)の作品(日本では直島などで観ることができる)を、作家自身がミュンスター市や大学に寄贈しようとしたところ、保守的な行政や市民たちがその作品の受け取りを拒んだとのこと。これが発端となって前衛的な作品への理解や、公共の場に置かれる作品のあり方をめぐる論争へと発展し、ひとつの展覧会が生まれるに至った。このような文化あるいは社会的背景から始まったこのプロジェクトは、30年を過ぎた今なお続き、いまやミュンスターはアートによって鍛えられた街として世に知られている。

第4回目にあたる今年は、6月17日から9月30日まで開催。キュレーターは、ブリギッテ・フランツェン(Dr. Brigitte Franzen)を筆頭に、立ち上げ当初からの名物キュレーター、カスパー・ケーニッヒ(Prof. Kasper Konig)やアソシエイト・キュレーターのカリーナ・プラス(Dr. Carina Plath)も加わった。この3名のキュレーターによって招致されたアーティストたちは、約2年前からこの街を訪れては一定期間滞在し、市民との対話を重ねながら作品がより意味を持ちうる場所を選び、制作を進めていくという。しかしその一方で、最終的に市内での展示や活動に至らないこともあるそうで、今年も当初36人のアーティストが関わる予定だったが、最終的に参加したのは、33人だった。今回は、過去3度の展覧会で市が買い取った39点と合せて、72 点もの作品が街中で見られることになった。


私がこのミュンスターに滞在できる限られた時間は、たったの半日。それまでのヴェネツィアからバーゼル、そしてカッセルを巡るアート漬けの旅に、やや食傷気味ではあったものの、この旅の締めとして、泣く子も黙る強行スケジュールを立てた。朝5時に起床。ドクメンタが行われている街のカッセル・ヴィルヘルムスーエ駅からミュンスター行きの始発電車に、はやる気持ちを抑えながら乗りこみ、不慣れな乗り継ぎを繰り返しながら予想以上に遠い道のりを北西へ向かった。ようやくミュンスター駅に降り立ったときには、既に太陽が頭の真上で燦々と輝いていて、時計の針は11時過ぎを指していた。いそいで駅に隣接する展覧会のインフォメーションデスクに立ち寄り、掌サイズに小さく折り畳まれた“Map of the Sculptures”を入手。これがこの小旅行の頼りだ。駅から歩いて15分のところに、この彫刻プロジェクトの主催者であり、中央インフォメーションにもなっている「ヴェストファーレン州立美術館」(LWL-Landesmuseum)がある。左手に地図、右手にペンを持ち、ランチをとるのも忘れて街の中央へ向かって歩き始めた。道すがら展示作品を見つけては、気分が高揚してくる。目標は、ミュンスター全制覇!と目論んで歩いていると、同じようにあちこちで意気揚々と歩いている人たちとすれ違った。ほどなくして中央施設に辿りつき、陽の光のなかで今回新しく州立美術館横に建ったSwicth+(a)と呼ばれる金色の仮設建造物がキラキラ輝いているのを見つけた。ここでは、世界中から集まった人々が思い思いに休憩している。ドクメンタといい、ミュンスターといい、こういう何気ない風景にも、国際的なアートの祭典であることを肌で感じることができる。


さて、中心地から再出発!街で行き交う人々が皆一様に作品探しに没頭している様子は、まるで街全体がアミューズメントパークになったよう。なにしろ展示作品は多岐にわたり、実はドーム(大聖堂)広場にある地下公衆洗面所(b)がアート作品としてリニューアルされていたり、バス停留所の壁が作品であったり、路面に埋め込まれたちょっとした煉瓦(c)がそうだったり?…ん、これは怪しい、なんて色々なものに目移りしてしまって、ほんとに何かに隠れるように存在しているので、地図を持っていても見つけられない作品も何点かあった。


その逆に普通に設置された噴水が作品なのかしら?などと、迷走することもしばしば起こる。「こんなに見つけるのが難しいとは思わなかったわ!」なんて嘆いている女性に出会ったりして、お互い励まし合いながら、それぞれに探し始める。一日で周われそうな小さな街ではあるけれど、相当な数の作品群だ。


10年前に本で見たことのあるダン・グレアム(Dan Graham)(d)の作品が森林の中に隠れるようにして佇んでいた。夏の美しい緑に覆われながらまるで息をしているかのようにそこにある。すぐ隣にはジェニー・ホルツァー(Jenny Holzer)(e))による石椅子が昔の石棺のような姿をして置かれていたり、また街中の小路には、アクセントを与えるように建つゲートが、ストライプでおなじみのダニエル・ビュラン(Daniel Buren)(f)の作品だったりする。まさに日ごろから人と共存するようにアートが息づいていることを体験できる街。


今回新しく加わった作品で印象的だったのは、橋の下で何をするでもなく立ちつくす人々につられて発見したサウンド作品。橋げたの下に響く聴覚を刺激する美声の掛け合いと川のせせらぎを体感できるスーザン・フィリップスの作品(g)


そのほかにマーク・ウォリンジャー(Mark Wallinger)による長さ5キロメートルの白い糸を玉にし、高さが4メートル半にも及ぶ作品や、1977年に計画されてようやく今年完成したブルース・ナウマン(Bruce Nauman)(h)の作品で、大学構内に設置されたなだらかな逆ピラミッド型の広場や、パヴェウ・アルトハメル(Powel Althamer)の野原に作られた小道(i)、そしてスーチャン・キノシタ(Suchan Kinoshita)による伝言ゲームなどがあった。


どちらかといえば、不可視だったり、凹凸の凹の世界観。なにかを象徴的にそびえさせるのではなく、目に見えないものの美しさを体感できる世界だ。いわゆる「グラウンドゼロ」にアメリカが建てようとしている新たなシンボルタワーとは違う発想とそれによって実現された風景がここにある。目に見えないものにこそ目を向けることの大切さを知らせるイメージ。


このミュンスター市、実は電車やトラムがない。移動手段はバスか自転車か徒歩。『自転車にやさしい市町村づくり』を実践する街だそうで、自転車専用道路が張り巡らされている。しかし、案外歩けそうだから徒歩で行こうなどと無謀な戦略をとったのが運のつき。全制覇の夢はむなしくも崩れ去り、大半を半日で駆け回るハイスピードのなかで、後半には疲労困憊で意識も朦朧としてきた。しかしそんなとき、湖の近くで幸せな光景を目の当たりにすることになる。辿りついた広場。そこでは、ミュンスターの作品たちがミニチュア化して大集合していたのだ!既にマークをたくさん書き込んだmapで探すと、ドミニク・ゴンザレス= フォレステル(Dominique Gonzalez-Foerster)の「ミュンスターのロマン(物語)」(j)という作品だった。すべてを優しく包むようにやわらかく降り注ぐ西陽に照らされた和やかな広場。その瞬間に足元から感動が湧き上がるのを感じた。


あぁミュンスターで、いや、今回の渡欧で見たかった光景がここにある!こんなふうに無条件に肌や匂いで感じとるもの、それがアートだと信じたい。そんな気持ちでいっぱいになった。長く凝縮された旅の果てに現れた光景を前に、走馬灯のように今回の旅で出会った数多くのアートや人、出来事が浮かんできた。私の周りでは、芝生でくつろぐ人々と作品たちが幸福のカタチを描いていた。人とアートが共に生きていることを実感したひと時だった。



***ミュンスター彫刻プロジェクトでみた他の作品***


トーマス・シュッテ(Thomas Shutte)〔独〕, 美術館のためのモデル マイク・ケリー(Mike Kelley) 〔米〕, ペッティング・ズー(触れ合い動物園) トゥエ・グリーンフォルト(Tue Greenfort) 〔デンマーク〕, 拡散する入口


ホルヘ・パルド(Jorge Pardo) 〔キューバ〕, 埠頭 クレス・オルデンバーグ (Claes Oldenburg) 〔米〕, ジャイアント・プールボール ギョーム・ベイル(Guillaume Bijl)〔ベルギー〕, ア・ソーリー・インスタレーション(発掘現場)



photo & text by 竹島麻衣


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