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| ルベル・ファミリー・コレクション 会場 ©Hiroko Seki |
いま、私たちがマイアミを訪れて、今日はルベル・ファミリーのコレクションだ、明日はエラ・シスネーロスの新しい美術館のオープニングだと、フェアの見学もそこそこに駆け巡る個人コレクションの存在は、5年前、ニューヨークのアート界ですら、知る人は少なかった。自分の画廊の若い作家の写真作品を積極的に買っていく人が、実はマルグリス・コレクションの主だったのかと、あとでびっくりする画廊主もいたほどだ。
ともあれ、ケラーはこの地元コレクターに注目した。地元コレクターたちは、予想以上の展開を見せた。中でも、ベネズエラ出身のシスネーロス財閥の一人、エラ・シスネーロスは、2003年に「マイアミ・アート・セントラル(MAC)」を、2005年には「シスネーロス・フォンタナルス美術財団(CIFO)」を開館した。コレクションを見せるなら施設も作っちゃいましょうという、その気概も財力もすごいが、キュレーターを雇っての企画展もまた相当な質の高さである。例えば、MACの開館記念展「フロリディアン」は、タイトル通り、フロリダ在住の作家に焦点を当てたもの。ルイス・ギスパートやセルヒオ・ヴェーガら、いま注目の作家が早くも紹介される。今年のCIFO の企画展の一つ「ラテン・アメリカの抽象の現場」展は、まさに目から鱗だった。ロシア構成主義の直系にしてミニマル・アートの先駆ともいえる1940年代、50年代の作品が、いま、いよいよ新鮮に見える。
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| 招待客でごった返すマイアミ・アート・セントラルでのオープニングの夜 ©Manami Fujimori |
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| 約100万個の色タイルで覆われたCIFO の外観 ©Cisneros Fontanals Art Foundation |
また、クラフト系の画廊や作家スタジオが集まるウィンウッド地区には、ルベル夫妻が収集したルベル・ファミリー・コレクション(Rubell Family Collection)があり、こちらも展覧会形式で年間を通じて公開されている。同じ地区には、写真とビデオの包括的な収集で知られる不動産王マーティン・マルグリス氏のコレクション(The Margulies Collection)があり、ベッヒャー夫妻に始まるドイツ写真の系譜はすべて押さえ、コータ・エザワやヒラキ・サワ(さわひらき)ら、いま注目の日本人映像作家の作品が並び、この秋、ニューヨークのシーズン明けを飾ったオラファー・エリアソンの光のインスタレーションがエントランスで出迎える。
一方、美術館ではなく、自邸をそのまま開放してコレクションを見せてくれるのは、キューバ出身でイーグル食品ブランドやコーラ瓶流通業で財をなしたデ・ラ・クルス夫妻である。ビスケイン湾に面したガーデン・テラスが何とも優雅な彼らの住居は、まさにアートの宝庫だ。フェリックス・ゴンザーレス=トーレスのハッカのキャンディやジム・ホッジズの壁の花、この秋、チェルシーの画廊2か所で展覧会を開催中のタル・Rの大きな絵画も4点、メザニンのポップな壁紙は、アシューム・ヴィヴィッド・アストロ・フォーカスの特注作品だ。ABMBの会期中、夫妻は3日間にわたって毎日500人の予約客を朝食会に招き、新収集品を中心に毎年変わる展示を披露する。夫妻はまた、デザイン地区と呼ばれる再開発地域のビルにアートスペースを持ち、「ムーア・スペース(Moore Space) 」と今年新たにオープンした「ムーア・ロフト (Moore Loft)」でプロジェクト・ベースの作品を見せる。
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| マルグリスコレクション、巨大なエルネスト・ネトのインスタレーション ©Hiroko Seki |
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| マルグリスコレクション入り口のオラファー・エリアソンの作品 ©Hiroko Seki |
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| デ・ラ・クルス夫妻の自邸 ©Hiroko Seki |
さてここで、個人コレクションがベースの美術館や美術展は何も珍しくない。それなのに、マイアミでは、ABMBに出展中のディーラーもメディア関係者も美大の教授も各地の美術館の理事たちもマイクロバスを連ねて見学に行く。なぜだろう。商売や取材のため、社交のためということはある。が、ここには、「アートを買うとは」、「アートと住むとは」のいたってシンプルで近づきやすいお手本があるからだ。コレクターの一方の側に、ルイ何世様式かの家具や調度品に囲まれた豪奢なライフスタイルがあるとすれば、マイアミのコレクターは、いかに資産家といえど、そのアートの所有の仕方に華美な点は一切ない。また、現代アートの巨匠ではなく、そのシーズンに注目された若い作家の作品を購入し、サポートする。名前より、作家の成長に賭けるのだ。この楽しみは、デ・クーニングやウォーホルに費やす何百分の一かのお金ですむ。さらに、収集や展示を通して少しずつ、しかし確実に中南米やマイアミの地元作家を押し出している。
こうした個人コレクターの「眼」と「意識」に刺激されたように、マイアミ美術館(Miami Art Museum)やノースマイアミ現代美術館(Museum of Contemporary Art, North Miami)など地元の公立美術館もフェアに合わせ、著名キュレーターに委託しての企画展や地元作家のコレクションを見せるようになった。マイアミ・ビーチには、バース美術館(Bass Museum of Art)のほかにアールデコのデザインを集めたウルフソニアン美術館(Wolfsonian - FIU)があり、こちらも必見だ。ABMBをてこに、マイアミのアートシーンが活気づいている。それは、ニューヨークやベルリンのような作家主導型ではないかもしれないが、受け入れがあるという点で、いまやニューヨークより早く、海外の注目作家が登場する場ともなっている(例:ムーア・スペースでのヤン・フードンの展示や、ノースマイアミ美術館でのアイザック・ジュリアンの展示)。
マイアミ浮上をさらに印象づけたのは、かねてよりのマイアミ美術館のウォーターフロント新館構想だ。同美術館は2年前、ニューヨークMoMAの建築・デザイン部門のキュレーター、テレンス・ライリーを館長に引き抜いた。MoMA増改築の建築家、谷口吉生招聘にも力のあったライリーは、今回の新館建設にあたっては、「テート・モダン」で有名なヘルツォーク&ド・ムロンを起用。今後10年はかかりそうな建築プロジェクトだが、エラ・シスネーロスのMACがマイアミ美術館と提携するというニュースも飛び交い、毎年、目が離せない。
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| デザイン地区のはずれにできた「ムーア・ロフト」 ©Manami Fujimori |
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| デザイン地区のオープニング日、賑わう「ムーア・スペース」前 ©Hiroko Seki |
アートシーンの勃興はまた、ダウンタウンの再開発やビーチ沿いの高級ホテルやコンドミニアム建設とも結びついている。家具のショールームがあるほかは、荒涼としていて食べるところ一つなかったデザイン地区の開発を手掛けてきたデベロッパーのクレイグ・ロビンスは、アート収集もさることながら、ビルの壁やロビー用に現代作家の作品を発注する。昨年からは、デザインのフェア「デザイン・マイアミ(Design Miami)」を毎年企画し、建築家ザハ・ハディードの彫刻がムーア・ビルのアトリウムを飾った。ロビンスに限らず、前述のコレクターたちもみな、何らかの形で不動産事業に関わっている。ABMB の関連イベントには、そうした建物+パブリック・アートのお披露目が多い。
バーゼルのマイアミ進出には、実に、こうした地域開発とアート収集に長けたコレクターたちの誘致が背景にあった。この特徴は、マイアミだけのものかもしれない。裕福な退職者やセカンドホームを構えるパートタイムの居住者が多いフロリダは、キューバ移民に代表される貧困層がある一方で、潜在的にアートコレクターが多いという特徴もある。だが、シカゴの例を見るまでもなく、画廊とコレクターを数日間だけコンベンション・センターに詰め込むトレードショー型のアートフェアは、もはや廃れたといってよい。ABMBの成功は、地域のアートシーンと連動し、アートを買う、所有することの意味を討論し、そのもっともよい例を具体的に紹介し、何よりも透明で刺激的なアート市場を作ったことにあるのではないだろうか。
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| アールデコのデザインを集めたウルフソニアン美術館 ©Manami Fujimori |
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| デザイン・マイアミ」のオープニング風景(2005年) ©Manami Fujimori |
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| vip専用ラウンジ ©Hiroko Seki |
ところで、アートフェアもビジネスであるなら、ABMB自体の利益とはどんなものだろう。具体的な数字の発表はないが、いかにバーゼルでも、ブース代と入場料収入だけでは賄えない。補填は、主要スポンサーUBS(スイスの投資銀行)だが、2004年の第3回目まで赤字だったとの報道がある。著名作家や批評家を招いての関連プログラムはかなりのコストのようだ。だが、いまやこうした関連企画のそれぞれにスポンサーがつくようになった。かつて、アートのスポンサーといえばフィリップ・モーリスやIBMで、お金は出すが商品は出さないのがルールだった。近年は、機材供与に始まって、お酒であれコスメであれ、アート・イベントでプロダクトを配るのは普通。その意味では、富裕層であるアートフェアの顧客をターゲットにスポンサーになりたい企業が続出なのだという。
このレポートを書いている最中、中米・カリブ海諸国で初のフェア「CIRCA プエルトリコ」やら、中東・バルカン諸国で初のフェア「コンテンポラリー・イスタンブール」やらの情報が飛び込んできた。まるで、90年代に世界各地で生まれたビエンナーレの勢いである。『ニューヨーカー』誌のピーター・シュレダールのマイアミ報告も、「90年代がビエンナーレの時代なら、この10年はアートフェアなり」の文章で始まっていた。雑誌の美術批評にABMB が登場すること自体、アートの趨勢はいまアートフェアへと向かっているようだ。











