Art Basel
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| Art Basel メイン会場のMesse前。パブリックアートが楽しい |
6月、梅雨空にさしかかる日本を後にし、ベストシーズンを向かえるフランスとドイツ国境に接するスイスの小都市、バーゼルにやってくると、今年もこ こ何年かコンスタントに活況づいているアートマーケットの盛り上がりを街中に感じることができる。バーゼル・ミルハウス空港に降り立った瞬間から街中にいたるまで、Art Baselのバナーやサインが、世界中からの訪問客を歓迎する。それは、Art Baselが世界のアートマーケットの本流を形成し、バーゼル市にとって非常に重要な産業となっていることを語っている。Art Baselをはじめとするアートフェアといわれるものは世界各都市で多数開催されているが、やはり王道を行くのはArt Baseであろう。
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| 1Fは、よりエスタブリッシュされたギャラリー、2Fは、現代アートのよりチャレンジングなギャラリーが軒を連ねる |
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| Art Unlimited の会場前の噴水、これもパブリックアート。小中学生の団体も見学にやってくる |
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| 毎日会場前の朝にさまざまなトークが行われる。ブルガリがスポンサーのConversations |
2006年、37回を向かえたArt Baseは、クオリティー、規模、売上高、権威のどれをとっても他の追従を許さない。出展画廊は約300。売買されるのは20世紀および21世紀のアートが中心で、作品価格は、下は5000ドル以下からと意外と手が届きそうな価格帯のものもあるが、100万ドル以上クラスの作品も多数販売されており、 1000万ドル級もめずらしくはない。2000年からは、インスタレーションやビデオ、パフォーマンスなどブースに収まりきれない形態やサイズのアートを巨大な会場で展示販売するArt Unlimitedも開催。表現の多様化に応じて変化するマーケットの動きにいち早く対応している。関連プログラムとして、アート、建築、デザイン界のさまざまなゲストを迎えたトークやレクチャー、ビデオアートやフィルムの上映など、実に盛りだくさんである。
オープニングを含め6日間で約6万人のコレクター、美術関係者、メディア関係者が集まるこのフェアのメインスポンサーはスイスのプライベートバンク、UBSである。ここで行われる巨額の取引および新規顧客獲得のために、メッセとよばれる会場の一部にあるVIPのみアクセスできるラウンジ内に、さらに上顧客のためのラウンジを設け、ビジネスの拡大に余念がない。VIP用ラウンジ内には他にもセカンドスポンサーであるブルガリが宝飾品の展示販売ブースを設けたり、高級コンドミニアムや、保険会社など、各企業は顧客獲得のためにスポンサーとなり個別にスペースを構えて営業している。
Art Baselはギャラリストならだれしも出展目標にしたいアートフェアであろう。Art Baselの出展基準はそのクオリティーを保つために大変厳しいことで知られる。参加資格に満たない若手ギャラリストは、いつかはArt Baselに出展することを夢見て、市内で同時期に開催される予備軍的アートフェアに出展するのである。もちろん世界中から訪れる美術関係者やコレクター の目に触れることを期待して...。
マイアミ、そして北京
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| メインスポンサーのUBSが用意したVIP用ラウンジ |
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| Art Basel Miami Beachのギャラリーブース |
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| エルネスト・ネトの作品の下でディナーパーティー、あるコレクターの美術館にて。スポンサーは証券会社のゴールドマンサックス,Art Basel Miami Beach |
2002年よりアメリカ、フロリダ州マイアミビーチではじまったArt Basel Miami Beachは、Art Baselのシスターイベントと位置づけられ、毎年12月初旬に開催される。メインスポンサーはArt Baselと変わらずUBS。しかしながら、ニューヨークのアート界がそっくり移動してきたような感があり、特に場所柄北米、南米の出展画廊が目立つ。マ イアミにArt Baselを呼んだのは現在そのコレクションを展示する美術館をマイアミに持つ2人の大コレクターであるが、これをきっかけにArt Basel Miami Beachは一気にアメリカアートマーケットの中心的イベントとなりその盛況ぶりはとどまることを知らない。真冬のニューヨークを経由してマイアミに到着 すると早速コートをホテルに脱ぎ捨て、アールデコの建物を横目に楽しみながら会場へ。フェアもさることながら、ビーチでコンテナを利用した予備軍フェアも おもしろいし、中南米系のコレクターによるコレクションがまとまって見られるのもマイアミならではの魅力である。サンセット時にビーチでカクテルが楽しめ るのはスイスと違うところであるが、夜毎に開かれるパーティーやオープニングのはしごはここでも同じである。
そして、2006年9月北京。2008年のオリンピックを目前にバブル真っ只中の北京のアートシーンに、Art Baselがブランチイベントを開催した。場所は中国美術館。ホストは2005年のヴェネツィア・ビエンナーレで中国が正式デビューを飾ったコミッショ ナーでもある館長のファン・ディアンである。商業活動であるアートフェアのイベントを国立美術館が受け入れ、場所を提供する。国際的に著名なパネリストお よび北京現代アートシーンにおいてもっとも影響力のある人々の活発な討論が繰り広げられる中、ファンが、中国のアート界はまだシステムも確立されておらず 混沌としているが、アーティスト、美術館、画廊、コレクター、評論家、さまざまな人で成り立っているこのアート界をみんなで協力しあって作っていくことが 大切であると締めくくったのは印象に残った。日本では、アートフェアが商業活動であるからという理由で行政のサポートや企業協賛が得られにくいなど、経済 とアートがずいぶんと遠くに位置している。しかし、経済活動の伴わないインダストリーにおいては、才能あるアーティストは相変わらず海外に活動場所を求め て出て行くだろうし、優秀な人材も育たないだろう。
そういう意味では、まだ未曾有とも言える中国の現代アートが、海外のマーケットでここまで高値をつけ、国際的なアートシーンに食い込んでいる背景に は、国がアートは国力の宣伝になるというしたたかな戦略も見え隠れする。Art Baselのディレクター、サム・ケラーは北京でこのイベントを開催した理由について、中国ですぐにマイアミビーチのようにシスターフェアができるとは考 えていないが、何年か後の可能性を今からさぐっていることと、中国の富裕層、コレクターにバーゼル本体に来てもらいたいということであった。はたして、 Art Basel Beijingは可能か?Art Baselのオーガナイザーはどのような感触をえただろうか。
アートワールドとマーケット
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| 北京で行われたArt Basel Conversations China シンポジウム、中国美術館 |
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| 作品購入を検討する美術館キュレーターたち Art Basel |
日本人は総じてアートが好きではないだろうか。上野で開催される人気展覧会には入館者が行列をつくっていたりする。しかしその興味や好奇心は、江戸 時代や近代日本の美術コレクターのパッションとやや異なり、あくまで美術館の中でアートを見るという行為に対して向けられているように思える。アートに 「見る」と「買う」という2つの関わり方があるとして、両者はまったく異なるコミットメントであるといえよう。アートには値段があるということ、アートを 買うまたは所有するという行為、つまり売買されることで画廊はアーティストをサポートすることができ、アーティストはまた新しい作品制作が可能となり、作 品は新しい持ち主のもとで別の人生を歩み始める。そして、コレクターはアートが身近にあることで豊かな気持ちになれる。一年に一度、バーゼルにやってくる 人たちには、アートを生業としている人々である。そして、その職業は、ギャラリストであり、アートディーラーであり、美術館館長であり、キュレーターであ り、評論家、コレクター、投資家、ジャーナリスト、アーティストなど、つまり彼ら全員がアート界を構成してるプレイヤーであり、文化産業としてのアートを 支えていることにほかならない。
ある年のヴェネツィア・ビエンナーレのオープニングの後、バーゼルに向かう私に、「バーゼルではアートに値段がついているんだよ。信じられない よ!」と言った人がいて驚いた。しかしこのようなリアクションはさほどめずらしいことではない。ではなぜ、ヴェネツィア・ビエンナーレの翌週にArt Baselが開催され、人々はアルプスを越えてこの小さな街に移動するのか。ヴェネツィア・ビエンナーレという歴史ある現代アートの国際展に出品された アーティストの作品がバーゼルで買えるからである。アーティストであれば誰しもヴェネツィア・ビエンナーレに出たいと願うだろう。そうすれば、国際的な知 名度も上がるし、画廊もつく、作品の値段も上がる...。アートが王侯貴族の庇護下にあった時代はとうに過ぎ、アートそのものが資本主義社会の市場原理ではた ちゆかない性質をもっているにもかかわらず、その市場原理の中で生きていかざるを得ないパラドックスを抱えているのだ。
マーケットはアートの状況を映し出す最も端的な鏡である。Art Basel Miami Beachには世界中から70の美術館のグループが視察に来たという。どのアーティスが話題になっているか、どのコレクターがあるいは美術館が何を買った か、どこの美術館長が誰と連れ立って買い物をしているか、一番ホットな情報はアートフェアにあり、ということだ。来年は、ヴェネツィア・ビエンナーレ、ド クメンタ、ミュンスター・スカラプチャー・プロジェクトの3つの大きな国際展が6月に一斉にオープニングをむかえる。Art Baselをはさんでオープニングからオープニングへと、イタリア、スイス、ドイツへと国境を越えた大移動となることであろう。彼らをそう向かわせる背後 には、アートマーケットという存在がある。アートフェアに行ってみよう。リアルなアートワールドが見えてくるだろう。









